宮林 妃奈子 このはのまど by Gallery 38

*本展覧会をもちまして、現行の国際ビルにおける『CADAN有楽町』は閉廊いたします。これまでのご支援に心より感謝申し上げます。

Top image: (left) 雲の根っこ / the Roots of a Cloud, 2024, 194x162x3cm, oil, charcoal on cotton, (right) 飛んだ唄 / The Song in Flight, 2024, 194×162x3cm, oil, charcoal, insect net on cotton, Photography: Takahiro Tsushima

会期:2025年3月11日(火) – 3月27日(木)
営業時間:火−金 11時−19時 / 土、日、祝 −17時
定休日:月
会場:CADAN有楽町 Space M
住所:東京都千代田区丸の内3-1-1国際ビル1階

オープニング・レセプション:3月11日(火)18:00-20:00

この度、Gallery 38ではCADAN有楽町にて宮林妃奈子の個展「このはのまど」を開催いたします。宮林 はオイルペインティングを中心に、コラージュなど多様なメディウムを用いながら、一貫した世界観を表現 しています。日常的なドローイングを通じて「描くこと」との距離を見つめ、慣性から離れ、新たな場所へ と自身を動かしていく。素材を支配するのではなく、受け取るものを表現に織り交ぜる柔軟性と謙虚さが、静かで力強いイメージへと昇華されるのです。本展では、2025年1月下旬にから東京藝術大学で開催された 修了展にて発表された作品の一部を展示いたします、是非ご高覧ください。

アーティスト・ステイトメント
土、アスファルト、石などの粒が集まり地面ができる。時間が過ぎ、面が収縮すると亀裂ができる。地 面の上で、人が歩いたり、走ったり、葉っぱが落ちる。亀裂は境界線となり、裂けるというよりも、互いの 面を押し合うようにして線がうまれる。亀裂がなければ線は現れない。絵や写真のように、四角になにかを 切り取ったり、排除するのではなく、見えないことも含めて、その前や後の痕跡をとらえるように地面を探る。
手で絵を描く。カンヴァスや紙、あるいは木など、絵が描かれるものは一般的に「支持体」(塗膜を支える 面を構成する物質)と呼ばれるが、私にとってそれは「受け止めてくれる手」として目の前にある。手が、動 く。私と支持体のどちらか一方が動くのではなく、互いに触れ合い、確かめあうようにやりとりが始ま る。 コットンの地を木枠に張る。一晩膨潤させた膠を熱湯でほどき、布全体を目止めする。湿った布は重 く、水分によって伸縮し、自然とピンと張る。布目の様子がよく見えるようになる。そこに、砂を置く。あ るいは、触れると破けてしまいそうな薄い紙を置く。針金を埋め込むこともある。一晩乾かし、翌朝には布 は軽いもなかの殻のようになり、壁に寄りかかる。乾いた紙や砂も昨日とは様子が変わっている。描くこと はすでに始まっている。布は私に、油をたっぷり含んだ大きな筆を取らせ、粒の動きを見せてくれる。粗目 の顔料を筆に取り、布の骨をつくる。その骨は、後に溶けてしまうこともある。最初の一手は、骨として始 まりながらも、終わりには最初を忘れさせてくれる。布目に押し込まれるように、筆が動いてゆく。異なる 粗さの粒や石が布の上を走り、色にならずに少しだけ留まる。木炭を布の上の砂に滑らせる。ざらりとした 炭の粒子が線でも面でもない状態で置かれる。水を触れることに似ている。大きさの異なる土や砂の中から アルファベットビスケットを探し出すことにも似ている。マスキングテープで色を加えたり、長い棒の筆で 線を引く。2メートルの布に4メートルの空間を見る。毛先から遠い位置で棒を持ち、自分の腕の力ではないところを探す。しかし、自分の腕であることからは逃れられず、そこにある粒子の動きに抵抗するように腕が動く。ボロ布とテレピンで粒子を拭い取る。それは消すのではなく、線を立たせることであり、描くこと でもある。布目、ピグメントの粒子、染み込んだ絵具、面になりかけた色があり、そこに距離が生まれる。長い棒の先に木炭をつけ、文字を書く。言葉として意味を持たない文字である。文字は立ったり、寝たり、 踊ったりする。また、ボロ布で拭い取ったり、大きな刷毛で馴染ませることもある。身体を超えた大きさの 絵と向き合うとき、この絵をどうにかしようとするのではく、絵を絵ではなくすことを考える。絵をポケット(目のなか)に収めるのではなく、肩のとがったところを触れていくようなところを目指す。筆で描くとき、描く先をみるよりも、周辺の変化する様子をみる。頭の内側の皮膚から絵の四つ角を見る。絵の真ん中 を浮遊させる。完成させることは目指していない。絵の休憩場所を見つけ、足りなさをつくることで、絵から離れる。

宮林 妃奈子 Hinako Miyabayashi
1997年北海道生まれ。ベルリン芸術大学美術学部に交換留学し、マルク・ランメルト氏に師事。2021年 に多摩美術大学油画専攻を卒業後、2023年にベルリン芸術大学マイスターシューラー課程を修了(ティロ・ハインツマン氏に師事)。2025年3月、東京藝術大学大学院修了。主な個展に「土に隠れた文字のしっ ぽ」(Gallery 38、2024年)、「project N 93」(東京オペラシティアートギャラリー、2024年)などがある。