高橋尚愛展「Calendar for Year 3015」by MISAKO & ROSEN

高橋尚愛展「Calendar for Year 3015」by MISAKO & ROSEN
会期:2023年1月31日(火)~2月19日(日)
会場:CADAN有楽町 東京都千代田区有楽町1-10-1 有楽町ビル1F
営業時間:火~金 11~19時 / 土、日、祝 ~17時  / 定休日:月(祝日の場合は翌平日)
企画:MISAKO & ROSEN

この度、CADAN有楽町では、MISAKO & ROSENによる高橋尚愛展「Calendar for Year 3015」を開催いたします。

高橋尚愛は、1940年東京生まれ。現在はアメリカのバーモント州とパリを拠点にしています。60年代にヨーロッパに渡り、70年代よりニューヨークで活動してきました。2015年になり若手アーティスト奥村雄樹により、その活気にあふれたニューヨークのアートシーンの中で、高橋は数々のアーティストたちと交流し活動してきたことが明らかにされてきました。
今回発表されるカレンダーの作品は、近年MISAKO & ROSENが解き明かそうとしてきた高橋の活動への理解をさらに深めることとなるでしょう。

高橋尚愛/時間をめぐる覚え書き 2023年1月
《Calendar for Year 3015》(1972/2015)

未来に辿り着くこと/時間に追い抜かれること

未来を引き延ばすこと/ミレニアムをひとつ飛ばすこと
——

未来が現在に追い付いてしまったので1000年が追加されたカレンダー
——

その生涯、そしてアーティストとしての遍歴を通じて、高橋尚愛は時間の経過と手を取り合いながら──そしてまた、いわば時間の経過に立ち向かいながら──活動してきた。波乱に満ちた彼の人生の軌跡は、時間の経過によって形成されたのである。逆も然り。時間もまた、高橋と手を取り合い、そして高橋に立ち向かいつつ、その活動を続けてきた。

活動の最初期、まだ若い美大生だった高橋が手がけたのは、歴史ある戦艦を記念するコンクリート製の巨大モニュメントだった。それは今日、横須賀市沿岸の海底に横たわっている。邪魔になったのか、あるいは時代に求められなくなったのか、とにかく彫刻は海に沈められ、跡地は駐車場になった。深い海に飲み込まれ、摂り込まれたそれの捜索は、今日まで試みられていない。未来の情景──何百万年もの時を経て化石化した聖書が出現するさま──を描いたドローイング《Petrified Bible》と同じく、この沈んだ記念碑もまた、過ぎ去った時代を未来に対して証言する、高橋流のタイム・カプセルなのかもしれない。それが再び姿を現すには、数千年、いや数百万年の時間がかかるのだろう。

時間がバラバラの撚り糸で織り成されていることを示す事例がもうひとつある。かつて高橋は、画面全体が模様で覆われた絵画に取り組んでいたが、1960年代中頃にそれをイタリアで初めて発表したとき、注目を得ることはできなかった。ワイド・ホワイト・スペースというアントワープの画廊で数年後に開かれた個展においても、寄せられた関心は限られていた。そのあと一連の絵画は同画廊の倉庫に姿を消した。そこに身を隠し、忘れられ、40年に渡って留まりつづけた。後年、2013年になってようやく──奥村雄樹というアーティストのおかげで──それらは表舞台に再登場し、注目を受け、世界中に点在することになった。

ときに高橋は、時間の進展がもたらす遅延に応じて、その流れに調整を加える。1972年、彼は西暦2000年という遠い未来のカレンダーを作ろうと思い立ち、まずはその準備として、溶剤を介して様々な既製のカレンダーのインクを月ごとに12枚のワックス・ペーパーへ転写した。彼が念頭に置いていたのは、1972年の暦が次に使われるのは2000年である──どちらも閏年なのだ──という事実だった。しかし結局、計画は実現されなかった。カレンダーは作成されず、ゆえに使用もされないまま、当の西暦2000年が到来してしまった。高橋が12枚の紙を再び引っ張り出したのは、準備から40年もの月日が流れた2015年、アムステルダムのアネット・ゲリンク・ギャラリーにおける展覧会のためだった。ようやく当初の計画が完了したわけだが、とはいえ重大な改変が加えられていた。とっくの昔に西暦2000年が過ぎていたため、西暦3015年という更に遠い未来へとカレンダーの年数が移行されたのである。

《Calendar for Year 3015》に現出しているのは、循環的な時間との戯れである。そこでは、過去のアイディアが再活性化され、現在へと運び込まれ、未来へと指し向けられている。それは再利用の反復であり、過去の再活性化であり、そしてもしかしたら、過去になることへの拒絶である。

本作に見て取れるのは延々と循環を続ける時間という考え方だが、そこから私が想起したのは次の短い覚え書きだった。1976年にサイ・トゥオンブリがタイプライターで打ち込んだ、高橋宛の一節である──「自然の偏執性とアーティストの執念だけに見受けられるロマンティックな連続体」。

経年変化によって脆くなったその黄色い紙に遭遇したとき、私は手つかずのまま箱に詰められていたヒサチカ発/宛の書簡──個人的なハガキ、手紙、殴り書きのメモ──を調べていた。場所はラファイエット通り381番地、ラウシェンバーグ財団のアーカイヴである。それは、活気に溢れた1970年代ニューヨークのアートシーンと密接に関わりながら、ヒサチカが40年近い歳月を過ごした建物でもある。

トゥオンブリが言うようなロマンティックな連続体は、段階的に変化していく自然の循環性においてのみ見知られているものだが、彼の見方によればそれはアーティストへと転移するのだ。それはアーティストの本質主義的な偏執性と無条件の不屈性において現出する。アーティストとしての実践の探究には持久力が、何度でも最初からやりなおす意志が必要となるのだ。連続体というコンセプトは、高橋の仕事の何たるかを照射するようでもある。彼は繰り返し過去に手直しを加える──新旧を往来し、過去を未来へと投射しながら。高橋は過去、現在、未来の間に齟齬をもたらし、非同期的な時間の糸を紡ぐ。彼に誘われ、私たちはそれをひとつずつ辿り直していく。

ソフィー・ユグナン

==
主な展覧会
2018「視覚芸術百態:19のテーマによる196の作品」国立国際美術館、大阪(グループ展)
2016「トーマス・デマンド: L’Image Volee」プラダ財団、ミラノ(グループ展)
「奥村雄樹による高橋尚愛」銀座メゾンフォーラム、東京(グループ展)
2015「Hisachika Takahashi Annotated by Yuki Okumura: Memory of Past and Future Memory」アネット・ゲリンクギャラリー、アムステルダム(2人展)
2013 プロジェクト・ルーム、ヴィールズ・コンテンポラリー・アート・センター、ブリュッセル(個展)
「フロム・メモリー:ドロー・ア・マップ・オブ・ユナイテッド・ステート」ショーン・ケリー・ギャラリー、ニューヨーク(個展)
「ヒサチカ・タカハシ:アントワープ 1967 / ブリュッセル 2013」エキシビション・リサーチ・センター、リバプール(個展)
1987「フロム・メモリー:ドロ ー・ア・マップ・オブ・ユナイテッド・ステート」タンパ美術館、タンパ、フロリダ(個展)
1967 ワイド・ホワイトスペース、アントワープ(個展)

刊行物
2015 高橋尚愛「From Memory Draw a Map of the United States」Hatje Cantz刊
ルーシーリパードによるエッセイ、マルシアE ヴェトロックによるインタービュー

パブリックコレクション
メニル財団、ヒューストン
ダラス美術館、ダラス
フォーリンデン美術館、ヴァッセナール
国立国際美術館、大阪